人を想う力に変えていける、お話
【簡略ネタバレストーリー】○AFRICA
八月後半に見てしまった、柳沢とリンダの二人連れの姿に、千波は動揺していた。
思えば、7月末の映研の飲み会の頃から柳沢の様子はおかしかった。その日は師匠の歓迎会も兼ねたものだったのだが、1年のリーダーである柳沢は欠席していた。さらに、約束していたと思っていた美術館へのお誘いも袖にされたこともあった。
そんな柳沢への不満を抱えるのは千波だけではなかった。3年の玲那は柳沢をボロクソにこきおろし、それに腹を立てた千波は玲那にキツイ一言を浴びせてしまう。
そんなことがあったせいか、千波は柳沢の心の変化をわかってしまった。
それから、千波の引っ越しの日、静岡へ帰る前日にも関わらず万里と香子が荷ほどきの手伝いにやってきた。そんな嬉しい時間も、玲那からの電話でぶち壊される。
玲那主催の合コンで人手が足りず、香子を誘って来いという連絡だった。当然千波は断るが、来なければ文化祭で千波たちの映像を上映させないと言ってきた。
悩む千波は香子に話そうとはしないと決意したが、千波の変調を察した香子によって白状させられる。香子は玲那のことが気に食わないと主張し、泊まりがけで合コンを破滅させる準備に取り掛かるのだった。
そして当日。二人は気合を入れて臨み、試行錯誤して作成した臭い袋を炸裂させた。その激臭によって合コンはご破算。部屋の脱臭をして脱出した二人は、自らの悪臭を嗅いで馬鹿笑いしながら、千波宅へ帰っていった。
そして香子が帰った後、千波は猛烈に彼氏が欲しくなった。それは帰って来てから聞こえた香子と万里の会話から刺激されて湧き上がった。千波は思わず柳沢へこの気持ちを打ち明けようとするが、途中で思い直してしまうのだった。
○ユア・アイズ・オンリー
その日も、柳澤は怪しげなクラブでダンサーをしていた。仲良しのジェイ君と踊り明かし、休憩に入った。キャットウォークに登った柳澤は、客に振舞っていたテキーラを飲みながら、夏休みの事故についてジェイ君に話していた。その時、全身に塗っていたオイルで手が滑り、頭から階下へ落下してしまう。
場所的に救急車は呼べず、社長に連れられタクシーで向うことになる。怪しげな格好の二人を乗せてくれるタクシーはおらず、しかしなんとか社長が武田鉄矢のごとくタクシーを止めた。
結果、柳澤は頭を4針縫って、念のため1日入院することとなった。
そして目を覚ますと、香子と二次元くんがお見舞いにやって来ていた。千波はバイトで来れないし、万里は今静岡だ。万里が静岡にいることが、柳澤にあることを惹起させた。
それは2週間前のこと、何度も食事を重ね、猛アピールしていたリンダが静岡へ帰るということで見送りに来ていたのだ。だが、なんの手ごたえもないことにいらついていた。万里の話題を振ってみたところ、リンダの様子が変わった。だから執拗に万里との関係を聞いてみたら、険悪なままその日は別れてしまった。
病室では万里の話題となり、万里に傷跡があることを、香子と二次元くんは知っていたことを知らされ、疎外感を感じてしまった。
二人が帰った後、再び眠りについた柳澤は、香子からかけられた呪いのことを思い出していた。
高3の夏。香子から逃げるため受験勉強に必死だった柳澤だが、ボンボンの友人たちからの誘いを断れず、豪邸のプールにやってきていた。しかし彼は泳がず、勉強に集中するのみ。
そこへ、柳澤を探していた香子が取り巻きを従えてやってきた。取り巻きたちに場を荒らさせる香子だったが、けっつまずいてラズベリータルトに顔面から突っ込んでしまった。
格好のつかなくなった香子は立ち去ろうとするが、去り際に、香子を裏切ったら「落ちる」という3つの呪いを柳澤にかけて帰った。
目を覚ますと、もう夜中だった。それから、リンダの行く先と万里の実家を思い出して、新幹線の停車駅などを照らし合わせると、万里とリンダの実家が同じことを知った。
退院後、万里に電話をしてみたが、何も聞くことができなかったのだった。
○束の間の越境者
ストーカー女王である香子は、静岡に帰省している万里に会えない寂しさから、万里の郵便受けを確認するという名目で、万里宅までやってきて、なんだかんだで合鍵をつかって不法侵入してしまう。
万里の部屋でハッスルする香子は、ブリッジ状態で歩行するリアルエクソシストまでやらかしたところで我に帰った。
が、その現場を窓からバッチリお隣のNANAに見られていた。それから香子はNANAの部屋に招かれ、エクソシストをライブで披露してほしいと頼まれる。もちろん断るが、万里に不法侵入をバラすと脅され、代替案として香子の恐怖体験や千波や柳澤、二次元くんに万里の恐怖体験も聞いて、ライブの参考にさせようとする。
が、誰の恐怖体験も参考にならず、万里に至っては自爆して不法侵入がバレてしまった。
すると、NANAはコンビニに出かけ、香子は留守番をすることになる。そこへ、どう見てもヤ○ザにしか見えにない男が押し掛けてきた。恐怖から香子はクローゼットに隠れたが、すぐに見つかってしまいそうになる。そこで、香子はエクソシストをかまして逆に男を驚かせて、蹴りやカバン攻撃でぼこぼこにしていたところを、NANAに止められた。
実は、男はトモヤスで、香子の反応を見て、この一幕をライブに反映させようとしていたのだ。
香子はすぐさま逃げるように帰って行き、万里の帰りを待ちわびるのだった。
【感想】 今回もゆゆこ節が炸裂していましたが、『番外』のような爽やかなバカバカしさは控えめに、『外伝』のように恋愛模様の方に力が入っていたように思えます。
それにしても、千波と香子の仲が『番外』以来急速によくなっているように思えます。それは、「ユア・アイズ・オンリー」で柳澤という第3者から見てもわかるほど顕著なものですし、「AFRICA」では友人以外の何者でもないように感じました。ああいう関係を、ある意味、親友や悪友と呼ぶことができるのかもしれません。とにかく、この二人が絡むととても面白い内容になっていました。
そんな香子と仲良くなった千波も、柳澤が自分から離れてしまってから、彼がいることへの居心地の良さを実感してしまうあたり、彼女が恋愛に不慣れなことが伝わってきます。
千波から慕われる柳澤は柳澤で、うまくいかないリンダへのアタックに業を煮やし、様々な想いが入り混じった怒りを万里へ向けそうになりますし、世の中うまくいかないものですね。
こんな感じのシリアス分多めでしたが、エクソシストやクラブでのジェイ君のパンツや臭い袋のバカ騒ぎなど、ギャグ成分も十分に楽しかったです。
ここ何冊か短編集挟んで本編、という刊行が続いているので、本編の進捗が遅れているように感じますが、こういったサイドストーリーを補完しながら進んでいく形式も面白味があっていいですね。
万里とリンダが静岡で和解したことが、東京に帰って来てから周囲の人間関係にどういった影響を及ぼすのか、やなっさんと万里の友情はどうなってしまうのか、続きが気になりますね。
秋ちゃんマジメンヘラJKやで・・・
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- 2013/09/16(月) 00:15:19|
- 電撃文庫
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