理不尽な世界を見せつけられる、お話
【簡略ネタバレストーリー】 空族兵士の墜落から3ヶ月。カドケス高校の生徒たちの生活に変化はなく、レーヴァムについての情報も民衆には知らされていなかった。
その日の訓練は飛空服姿に土嚢や銃火器を背負って砂浜を走り、その直後に遠泳と、ハードな内容だった。訓練後、教官のバンデラスに野営訓練をするのもいいだろう、と提案され、海で遊ぶついでにキャンプファイヤーなどに興じることになる。
ヴァンヴィール組やイグナシオは早々に帰ってしまうが、クレアはカルエルに誘われてセンテジュアル組と野営訓練をすることにした。
彼らが話す内容は、空族のことや、正規ペアについての話だった。中でも、チハルとミツオは一見すると違和感があるのだが、とても仲が良く、互いを尊敬し、好意を寄せあっていた。
他には、カルエル・クレア、アリエル・イグナシオ、シャロン・ベンジャミン、ノリアキ・ナナコ、ウォルフガング・マルコ・サントス(ウォルフの男気に憧れる舎弟)となっていた。中でも、イグナシオは成績不良で優等生であるアリエルとのペアが不思議であった。
キャンプファイヤーの木材が足りなくなり、クレアとカルエルが近くの森へ調達に向かったのだが、あっさり迷子となってしまう。その道中で、クレアが足を怪我してしまい、カルエルがおんぶをしたのだが、これまたあっさりひっくり返ってしまい、クレアを押し倒したような体勢になる。なにやら甘酸っぱい雰囲気になるのだが、寮生たちの要請で二人を助けに来た寮長シズカにガン見されていることに気がついて、あわてて離れてしまう。そして帰ってくると、おなじみのカルエルとアリエルの兄妹喧嘩が始まるのだった。
出帆式から4ヶ月もたつと、イスラはついに聖泉へと到達した。その日はイスラの住民が祭りを催し、カルエルたちは編隊を組んで空を飛んでいた。
あまりに雄大な景色や煌びやかな虹の色彩に感動したカルエルは、飛空士になろうとした過去を思い出し、母親を思い出し、ニナの野葡萄色の瞳を思い出したところで、クレアの野葡萄色の瞳を見てしまい、ある疑念がわきあがってしまう。そこでクレアになぜ飛空士を目指したのかと訊くと、ただ空を飛びたかったから、とだけ答えが返って来た。
一方、飛空艦隊ルナ・バルコの指揮所で、ルイスはアメリア・セルバンテスといた。彼女は「航海長」ルイス、「騎士団長」レオポルド、「財務長」マルクス・サンチェスと並ぶ「四人議会」というイスラの元老院的組織の一員であり、「外務長」である。
彼女によれば、捕虜の空族の持つ情報は偽物であり、空族を過小評価させるための作戦だという。そこにレオポルドが加わり、それは考えすぎだという。レオポルドは一兵卒から元帥に上り詰めた兵であるが、幾分戦闘狂な面が強かった。彼の作戦では、貴重な雷撃機を使いたくないため、カドケス高校の生徒たちを哨戒に当てるという。もちろん、管区長であるニナことクレアはその任から外される。
レオポルドが去ると、二人はこの世界がどんな形をしているのかという議論になり、その日のお祭りの席で語り合うことになる。
お祭りの夜。寮に支給される経費が少なすぎることから、寮生たちはアリーメンの屋台を出していた。これが大好評で、ルイスたちも食べに来た。そこへ、ルイスと水兵時代の旧友であり、アレクサンドラ近衛騎士団のインペリアルエースでもあったバンデラスがやってきた。いっしょにいたソニアは、そんな同僚の意外な経歴に驚きを隠せなかった。ルイスたちは世界像のことをバンデラスたちに聞かせたくないため、席を立った。
屋台の営業が終わると、寮生たちは好調だった売り上げに喜んだ。そこからアリエルを褒めていると、チハルの実技の上手さに話が移り、ノリアキがチハルとミツオは釣り合ってないだの、ミツオの悪口を言い始めた。それをチハルが怒気を強めて否定した。
その後、頃合いを見計らってミツオがチハルを慰めに向かった。そこでチハルの空を飛ぶ理由や家庭事情を知り、今後来るであろう戦争の話題となった。ミツオは残された人がいつまでも悲しむことを、死んだ人は望まないだろう、と言い、チハルもそれに共感し、でもやっぱり誰も死なない事を願ってやまなかった。
セレモニーというお祭りから4日たっても眇々と広がる聖泉を越えることができないでいた。水素電池も聖泉に着水できないため充電できず、節電が続いていた。
そんな折に、空族から宣戦布告がなされ、民衆は防空壕へ避難し、レオポルドは敵機を追跡させて、ほぼ全勢力で潰しにかかった。高校生たちは、予定通り哨戒や陸上警備に借り出され、クレアとペアのカルエルや、アリエルペア、ウォルフガングペアは湖で待機命令が下された。しかし、湖に行った途端に、クレアとなぜかイグナシオだけが中央庁舎へ連れていかれてしまった。
空族の母艦と思わしき飛空艦体が発見されると、非常用の雷撃機以外、ルナ・バルコも総動員して殲滅に向かい、あっけなく勝利した。
だが、それは囮だった。触接として哨戒に出ていたチハル・ミツオペアは、イスラ後方に超大型爆撃機や戦空機用空母などの空族の主力部隊と思われる一団と接触していた。これをすぐに報告し、二人はそのまま尾行しながら情報を送り続けた。
それを知ったバンデラスは、高校生たちの使う訓練機エル・アルコンで二人の役割を交代しに行こうとするのだが、それをソニアに止められてしまう。
囮の撃破から帰還した空挺騎士団たちは、急いで装備を詰め込み、後方敵勢力の迎撃に向かった。
チハルとミツオが絶対に帰ろうと約束していると、空挺騎士団が視認できた。しかし、夜中の現在では、敵艦の視認が困難だった。そんな時に、触接は閃光弾で敵を照らす役割があるのだが、こちらの位置がすぐにばれてしまい撃墜されてしまう危険性が高まる。ミツオはチハルの身を案じて躊躇うのだが、チハルに背中を押されて閃光弾を発射した。
何発かの閃光弾で敵影を確認できた空挺騎士団は、学生ながらのその行為に胸を痛めながら、戦闘が始まった。
想定通り、チアルとミツオはすぐさま集中砲火を受け、さらに敵単座戦闘機五機につけ狙われてしまい、どうすることもできず、ミツオが凶弾に貫かれてしまう。それでも、ミツオは死力を振り絞ってチハルだけを逃がし、自分はそのまま囮となった。そのことがチハルにはすぐさま理解できなかったが、ミツオのエル・アルコンが撃墜されると、落下傘で聖泉に落ちて行きながら、絶叫した。
その後、敵単座式戦闘機がチハルを殺しにかかってくるが、そこへバンデラスとソニアが助けにやって来た。バンデラスは卓越した戦闘技術で敵機の全てを撃墜させた。
超大型爆撃機も撃滅させ、戦闘終了かと思いきや、聖泉の中からイスラ同様に空飛ぶ島が出現し、イスラの総勢力を遥かに凌ぐ敵の正真正銘主力部隊が姿を見せた。
敵機によってヴァンヴィールや中央庁舎などが攻撃を受ける。戦力が不足しているため、ヴァンヴィール組だけが空戦に借り出されることになる。センテジュアル組は変わらず拠点防衛を命じられる。
カルエルは、意気揚々と戦場へ向かうファウストを飛空機越しに見つけ、待機しかできていない自分が悔しくて、自己判断で戦線へ向かうとする。アリエルはそれを止めるのだが、ウォルフガングたちも向かうと言いだし、仕方なく自分も向かうことにした。
カルエルたちはファウストを編隊長として敵を迎撃した。だが、技量、物量、性能で劣る彼らは一機また一機と撃墜されていった。
一方でエスコリアル飛空場にも、敵が降下してきた。ノリアキやシャロンたちは下手糞なりに抗戦するのだが、叶うはずもなかった。そして彼女たちが死を覚悟した時、寮長のシズカが窮地を救った。彼女は人間業とは思えない速度と、忍者の武器を使用して、瞬く間に敵勢力を制圧してしまったのだ。
同じ頃、包囲されていたカルエルたちは飛空場の砲門による援護と包囲網突破のために単縦陣の編隊を組んでイスラへ向かった。戦闘はファウストが努め、殿はウォルフガングだ。自ら一番危険な先頭に進んだファウストを、カルエルは見直し、戦闘が終われば仲良くしようと考えていた。
だが、その矢先に銀狐の描かれた三機の戦闘機によって、ファウスト機は撃墜されてしまう。あまりのあっけなさに呆けるカルエルだったが、アリエルに叱責されて我にかえる。
そのまま、残りのヴァンヴィール組やウォルフガングまで撃墜されてしまい、さらにはアリエルまで被弾してしまう。
彼女は左肩を抉られて起き上がれないようだった。だがカルエルはアリエルが死んでしまったように思えてしまう。何度も呼びかけ、これまでの自分の行いを悔い、大切な存在である彼女に素直な気持ちを打ち明けていた。
そんな時でも、銀狐達からの攻撃は止まない。しかし、この時のカルエルは人が変わったように卓越した操縦で攻撃をかわし続けた。そして銀狐の編隊長機が業を煮やして接近してきたところを、アリエルが死力を尽くして撃墜させた。
アリエルの生存に大喜びするカルエルだったが、なぜか先程のような神業がこなせない。もうダメかと思ったその時、未知国家の飛空機が空族の飛空機を撃墜させた。
その機体には海猫が描かれていた。海猫はカルエルと短い言葉を交わすと、他の空族たちを次々と沈めて行った。その姿があまりにも綺麗で、カルエルは海猫に尊敬と感謝の念を抱いた。
その後、飛空場に帰還し、アリエルとマルコは一命を取り留め、戦況もルナ・バルコの帰還によって空族を追い返すことに成功したが、イスラの被害も甚大だった。
一夜明け、カルエルはずっとアリエルの元を離れようとしなかった。自分の弱さを悔いていると、アリエルが起き出した。そして、アリエルを守れなかったカルエルに、自分の運命を変えてくれたのはカルエルであり、今は幸せなのだと告げる。
さらに、カルエルがどれだけ自分のことを想っていたのかを知った彼女は、初めてカルエルをお兄ちゃんと呼んだ。カルエルはいつになくしおらしいアリエルの態度に調子がくるってしまうのであった。
一方、ルイスの元に、未知国家からの協力要請が届いていた。送り主は、神聖レヴァーム皇国執政長官皇民議会第一人者ファナ・レヴァーム。
【感想】 泣いた。
2巻、3巻前半と、楽しい学校生活が続いていただけに、戦闘の恐ろしさが際立って見えた。
ミツオに関しては、2章のチハルを慰めるシーンでどんどん死亡フラグ立てるし、3章のタイトルが「散華」だった辺りから、これはもう死ぬな、という確信を持ってしまい、案の定男前な最期でした。ミツオの場面は結構涙ぐんで読んでました。本読んでて涙出たのは久しぶりでした。
それにファウストやウォルフガングもあっけなく撃墜されましたし、カルエルが感じた様に、戦場は人をあっさりと殺してしまうところなのだな、と感じました。まあ、現実の戦争のことは知らないので、想像の域を超えませんが。
他にも、バンデラス先生がただのアホじゃなかったことや、寮長が忍者だったことは素直に楽しめました。確かに言われてみれば、忍者って現代でいうところの派遣労働者に当たるような気がしますね。
それにしても、ラストのアリエルの可愛さったらありませんね。普段は気丈なふるまいを見せている彼女が、しおらしく、そしてカルエルにべったり甘える姿が、ギャップ効果で一段と可愛さを引き立てています。
物語もいよいよ終盤っぽいです。ルイスの考える世界像がいったいどんなものなのか、イグナシオの正体とは、カルエルとクレアの関係はどのような結末を迎えるのか、そしてなにより手紙の送り主のファナが『追憶』のファナなのか、海猫もシャルルなのか、尽きることのない謎と楽しみに満ち溢れている作品です。
続きを早く読まないと!
げに恐ろしきかなアリーメン
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- 2013/03/14(木) 17:07:24|
- ファミ通文庫
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